慢性の痛みは、身体だけでなく、「心」や「神経の働き」とも深く関係しています。そのため、薬や手術だけでなく、心や神経のケアを取り入れることで、痛みが和らいだり、痛みとうまく付き合えるようになることがあります。ここでは、代表的な心理療法をご紹介します。
「痛みが悪化したらどうしよう」「もう治らないかもしれない」――こうした不安や考え方が、痛みを強く感じさせることがあります。CBT (Cognitive Behavioral Therapy)では、こうした考え方を見直し、現実的で前向きな考え方に変える練習をします。また、活動量を調整するなど、行動の工夫も取り入れます。これにより、痛みによる生活の制限や心理的な苦しみを減らし、より安定した生活を目指します。
PRT (Pain Reprocessing Therapy)は、アメリカで開発された新しい心理療法です。最近の研究では、慢性痛の多くが「身体の損傷」ではなく「脳の予測の偏り」によって起きていることがわかってきました。PRTでは、「痛み=危険」という脳の解釈を修正し、「痛みがあっても安全」という新しい解釈を学習します。これにより、痛みを感じる神経回路が再び正常に働くようになり、痛みの軽減や消失を目指します。
過去や現在の人間関係での葛藤や、抑え込んだ感情が痛みを引き起こすことがあります。EAET (Emotional Awareness and Expression Therapy)では、こうした感情を認識し、適切に表出することで、心身の不調を改善させます。痛みの軽減だけでなく、健全な対人関係の構築やポジティブな感情への気づきも目指します。
日本で生まれた心理療法で、「痛みにとらわれるほど痛みが強くなる」という悪循環を断ち切り、「痛みがあっても自分らしく生きる」ことを目指します。生活習慣の見直しや、痛みに縛られない生き方を探すことで、より自由な生活を取り戻します。
慢性の痛みは、身体の痛みだけでなく、不安や気分の落ち込みが加わることで、さらに苦しく感じることがあります。マインドフルネスは、「今この瞬間」に意識を向け、起きていることを良し悪しで判断せずに受け止める練習です。これにより、不安やストレスが減り、心が落ち着きやすくなります。研究では、不安や気分の改善、睡眠の質向上、痛みによる生活の制限の緩和などが報告されています。さらに、継続することで脳の構造が変化し、集中力やストレスへの強さが増すこともわかっています。
「痛みは心と身体に記憶される」という考えに基づいた方法です。身体の細かな感覚に注意を向けながら、イメージや行動、感情、意味などを通して、少しずつ痛み体験に働きかけます。これにより、自律神経の過剰な反応を落ち着かせて、心と身体のバランスを整える力を身につけていきます。
もともとはPTSDの治療に使われていた心理療法ですが、慢性痛にも応用されています。 EMDRでは、眼球運動やタッピングなどの刺激を使いながら、脳が本来持つ情報処理の働きを促し、「痛みの記憶」を整理していきます。
リラックスした状態で意識を集中させ、普段では変えられない痛みのパターンに働きかけます。心身の心地よい感覚や「自分で痛みに対処できる」という感覚を見つけていくことで、痛みに対する身体の反応を調整していきます。
心理療法は、「痛みを和らげる」だけでなく、「痛みとともに生きる力」を育てる治療です。薬や手術と組み合わせることで、より効果的な慢性痛対策が可能になります。そして、医師や心理士と相談しながら、自分に合った方法を選ぶことが大切です。
A1. いいえ、そうではありません。慢性痛は、体だけでなく脳や神経の働きとも関係しています。心理療法は「心の病気の治療」ではなく、痛みの感じ方や脳の反応を整えるためのアプローチです。
A2. いいえ、組み合わせることが多いです。心理療法は薬や注射と併用することで、より効果的な慢性痛対策ができます。医師と相談しながら、自分に合った方法を選びましょう。
A4. 個人差があります。数回で変化を感じる方もいれば、数か月かけて少しずつ改善する方もいます。継続することで効果が高まることが多いです。
A4. 慢性痛に対する心理療法は保険適用外です。詳細は医師や医療機関にご確認ください。
痛みには筋肉や関節や神経などさまざまな要因が関わってきます。慢性的に痛みの症状がある患者さんでは、日常生活動作を送られている中で、痛みによって正しい動作が困難であるために、痛みをカバーするような動作(代償動作)が習慣化し、痛みを増加させてしまう例が多く認められています。そのため、その日常生活動作に対して嫌悪感を抱くようになり、QOLの低下を招いています。
そこで、当センターでは理学療法は身体機能評価によって、安全かつ効果的な運動療法を行っていきます。痛みによって引き起こされていた代償動作により、筋肉が硬くなったりバランスが崩れたりすることに対しては、筋肉の緊張をほぐし痛みを軽減させることを実施していきます。
また、痛みにより動けなかったり、運動量が少ない状態が続くと、筋力低下(廃用)が見られることもあると言われています。この筋力低下がさらに動きにくくすることにより、疼痛を悪化させるという悪循環が起きます。この廃用に対しても、患者様にあった運動療法を行っていくことで、筋力低下予防を目的としてアプローチしていきます。上記の目的の他にも、有酸素運動を行うことにより体を動かす不安感を少しでも解消し、運動への爽快感を再体験できます。運動療法だけではなく、日常生活動作の正しい方法、痛みが助長されないような動作、代償動作パターンを改善する目的として、動作指導も行っていきます。
このように理学療法を通じて、精神的要因、心理的要因、解剖学的要因から痛みにアプローチし、少しでも皆様のQOL向上を図っていきます。